Origin/OriginProユーザ事例集
第2回 「毛髪の微細構造を分析する大量のデータ処理をOriginで解決!!」

花王株式会社 ビューティケア研究センター  梶浦 嘉夫 様

花王株式会社 ビューティケア研究センター
梶浦 嘉夫 様

研究分野:毛髪物性・微細構造の解析
Originの用途:実験データの解析など
論文:

  • Journal of Structural Biology 155 (2006) 433-444
    Structural analysis of human hair single fibres by scanning microbeam SAXS
  • Journal of Applied Crystallography 38 (2005) 420-425
    Structural analysis of single wool fibre by scanning microbeam SAXS

花王株式会社 ビューティケア研究センターの梶浦様は、髪の毛の構造解析にOriginのデータ解析や自動化の機能を効果的に活用されている、Originのヘビーユーザです。
その梶浦様に、ご自身の研究内容や数あるソフトウェアの中からOriginを選んだ理由、その使い方、そして当社ライトストーンが開発した梶浦様向けのOriginカスタムプログラムについて、お話をうかがいました。

 

■ 髪の毛の微細構造を解析する研究

Origin/OriginProの特徴には、美しいグラフの作成や非線形フィットができるなどさまざまな機能がありますが、グラフ作成やデータ分析を行うためのプログラミング環境を提供していることも大きな特徴です。
プログラミング機能を利用することにより、大量のデータや複雑な処理の自動化ができ、作業時間を大幅に減らすことができます。今回お話をうかがった、花王株式会社・ビューティケア研究センターの梶浦様は、そのプログラミング機能を効果的に活用しているOriginユーザです。
花王株式会社といえばシャンプーや洗剤など毎日の暮らしに欠かせない製品のメーカーとしておなじみですが、梶浦様はその中でも特に身近なヘアケアについて研究されています。そして、近年研究されていることのひとつが、さまざまな髪の毛の微細構造を調べること。

花王株式会社 ビューティケア研究センター

梶浦様:「私の研究・業務の目的は、一言で言えばヘアケア技術開発です。開発した処理剤の毛髪への作用機構の解析、それに伴って毛髪自体の物性、解析も行っています。」

具体的には、髪の毛を構成するIntermediate Filament(中間径フィラメント)の状態を、X線小角散乱を利用して解析されています。1本の髪の毛にX線を照射することで、X線の散乱データが2次元の画像として得られます。その2次元画像を解析して処理することにより、フィラメントの太さやフィラメント間の距離、角度、縦方向の単位構造の長さなどの数値を決定でき、髪の微細構造がわかるのだそうです。
さまざまな状態の髪の毛についてフィラメントの様子を調べ、その相関関係を見出すことができれば、「髪に各種ヘアケア剤を使ったときに、効果があるのか」を判断する手段として利用できるというわけです。

■ 解析をするためにOriginを選んだ

この研究を行う上で必要となるのが、X線散乱のデータ処理です。そのデータ処理を行うソフトウェアとして、梶浦様が選ばれたのがOriginでした。

梶浦様:「二次元画像の解析ができないといけない、非線形のフィッティングができないといけないという2つの条件がありました。」

と、データ解析に必要な機能をOriginが満たしていることが、候補に選ばれる理由になりました。
そして、社内のOriginユーザによる「世界的に見ても研究の道具として認められているソフトだ」という推薦があったことが導入の決め手になったそうです。

梶浦様:「あとは値段ですね。自分が申請できる予算の範囲内に入っていました。」

実際にOriginを導入し、使ってみたところ「きめ細かいカスタマイズができる」点が特に気に入ったそうです。解析やプログラミング機能を使いこなすまでには苦労も多かったそうですが、それらの機能を使う目的で導入したため、最初からプログラミングなどにチャレンジしました。

- どんなソフトウェアでもはじめは戸惑うことが多いものです。山田様のように身近に知っている方がいない場合は、面倒に思ってしまうこともあるかと思います。そんな時は弊社テクニカルサービスをご利用いただけると嬉しいですね。

■ 膨大な量のデータをいかに処理するかに苦心

X線小角散乱の測定を行っているのは、兵庫県にある世界有数の大型放射光施設「スプリング8(SPring-8)」です。

1回の測定は1~2日で済むものの、得られるデータ量は合計で数100GBにもなります。

梶浦様:「1つのデータはテキストデータなら10MB、バイナリにすれば5MBぐらいですが、髪の毛1本につき15~6点のデータを取ります。したがって、髪の毛1本あたりのデータは80~100MBという膨大な量になります。」取ります。したがって、髪の毛1本あたりのデータは80~100MBという膨大な量になります。」

データを処理するプログラムを作ってしまえば各データの処理自体は難しいことはないものの、データを1つずつ処理していくことは大変面倒な作業です。

梶浦様:「それぞれのデータの処理ごとにパラメーターをいちいち手入力で行っていました。自分でマウスを動かしてぷちりぷちりと。」

そして、研究を続けていくうちに問題が出てきました。

梶浦様:「処理自体はできていたのですが、その規模というか処理時間というか、あまりにもデータが大量なので手が回らなくなってきたのです。」

各データの処理には時間がかかるため、処理が終わる頃を見計らって次のデータ処理を実行させなければならず、ほかに行っている仕事をそのたびに中断することになります。データが大量になると、こうした負担も無視できません。
そこで、一連の処理を自動化することを思い立ったそうです。

梶浦様:「今回のカスタムルーチンについても、最初は自分で作ろうと思ったんですよ。でも、(プログラム作成にかかる)時間を考えて、これはとてもやっていられないと。自分がそれに取りかかる時間、そしてその結果得られる成果を考えたときに、あえてトライしないという選択もあるかなと。」

そして、ライトストーンにカスタムプログラムの開発を依頼されました。

実験結果や研究成果を説明される梶浦様

実験結果や研究成果を説明される梶浦様

梶浦様:「数年前にこの研究を始めた頃はまだ緊張感もあったので、それこそ1日24時間、徹夜に近い状態で測定しました。でも、最近は寝ますね。さすがにつらいです。」

■ 解析時間を30%、費用は70%削減の効果!

梶浦様が行っている毛髪のX線小角散乱の解析手順は、

  1. 二次元X線散乱イメージの作図
  2. 一次元散乱強度プロファイルの抽出
  3. 理論曲線フィッティング
  4. 解析結果のアウトプット

という4段階です。この中の、「1」「2」「4」の作業を、カスタムプログラムで自動化できました。
その効果は、

梶浦様:「従来、200サンプルの解析にかかる期間は4カ月間でした。これが自分で行う処理が1.2カ月間、自動化プログラムを動かしている期間が1.4カ月間になり、所要時間としては30%の短縮に成功しました。」

と、かなり大きなものです。

解析を自動化するカスタムプログラムの導入による効果

解析を自動化するカスタムプログラムの導入による効果

梶浦様:「最近はスプリング8のオートメーション化が進んでいて、データが結構取れるんですよ。それで、解析が律速になってきています。前はデータが入ってこなかったんですけど。今は、次の測定までの間になんとか解析を終わらせなきゃ、という感じになっていますね。」

このような背景もあり、自動化プログラムが研究に役立っています。
もちろん、効果は解析時間の短縮だけではありません。

梶浦様:「人件費として計算すれば約70%の削減になります。」

と、費用という観点ではさらに大きな効果が得られています。
すでに数百本の毛髪を測定したものの、まだまだいろいろな解析が必要だそうです。放射光施設を利用するためには利用申請が採択される必要がありますが、採択される限りこの測定を続けていきたいということでした。

このインタビューは2006年11月下旬に行ったものですが、花王株式会社より2007年4月27日に発売された最新のヘアケア商品「Segreta」(セグレタ)に、今回の研究の成果が反映されているそうです。Segretaは、新聞やテレビ、雑誌などにも取り上げられ、注目を集めています。今後もさまざまな製品に研究成果が反映していくことが楽しみですね。

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