時系列分析とは

はじめに

時系列分析は、時間の経過に伴って変動するデータの構造を理解するための統計的手法です。例えば、株価の変動や気温の変化など、時間とともに変動する情報を分析します。 このようなデータは時系列データと呼ばれ、時間の流れに従って観察されたデータポイントの系列です。 これを用いて未来の変動を予測することが目的です。 時系列分析では、トレンド(長期的な傾向)、季節性(周期的な変動)、およびランダムな要素(予測できない変動)を特定します。 これにより、データの構造を把握し、将来のパターンを予測することができます。 具体的な手法には移動平均法、指数平滑法、ARIMAモデルなどがあります。 時系列分析はビジネス、経済、気象、株式市場など多岐にわたり応用され、 データに秘められた有益な情報を引き出す手法として学ぶ価値があります。

以下では、時系列分析を行う際に重要となる時系列データの加工、仮説検定、時系列分析モデルについてご紹介します。

1. 時系列分析とは

時系列分析は、時間の経過に伴うデータの変動を理解し、将来の動向を予測するための重要な手法です。 時系列分析では、時間に沿って収集されたデータ(時系列データ)を扱います。具体的には株価、気温、売上などが挙げられますが、 時系列データには時間軸上で変動するさまざまな要因が含まれます。時系列分析は下記のような様々な分野で活用されています。

医療データ解析
患者の生体情報や医療記録を時系列分析にかけて、病気の進行予測や治療効果の評価を行います。これは医療の個別化や効率的な医療提供に寄与します。
生態学的なデータ解析
動植物の個体数や気温などの生態学的なデータを時系列分析にかけ、生態系の変動や影響を評価します。これは環境保護や資源管理に応用されます。
金融市場予測
株価や為替レートの変動を分析し、将来の市場動向を予測します。時系列データを用いてトレンドやサイクルを特定し、投資判断やリスク管理に応用されます。
ウェブトラフィック分析
ウェブサイトやアプリのアクセスログを解析し、訪問者の傾向やピーク時を把握します。これにより、サーバーの負荷分散やマーケティング戦略の最適化が可能です。
販売予測
小売業や製造業では、過去の販売データを基に将来の需要を予測します。季節性や傾向を考慮し、在庫管理や生産計画に活用されます。
製造プロセスの品質管理
製造ライン上のセンサーデータや品質検査データを解析し、製品の品質や異常の予測を行います。異常が検出されると、生産プロセスを修正するために活用されます。

2. 時系列データとは

時系列データの特徴

時系列データは、時間の経過とともに観測されるデータであり、通常は等間隔でサンプリングされます。 ある特定の時点におけるデータである横断面データ(クロスセクションデータ)とは異なり、時点の異なるデータを集めたものが時系列データです。
また、時系列データは時間の経過に伴って変動します。これはトレンド(傾向)、季節性、周期性、イベントの影響など、さまざまな要因によって引き起こされます。

時系列データの変動要因

トレンド(傾向)

データが時間の経過に伴って上昇、下降、または横ばいのいずれかの方向に変動する傾向がある場合、それをトレンドと呼びます。 経済的なデータでは、経済の成長や衰退などがトレンドを形成する一因となります。

季節性

特定の期間や季節において規則的な変動が見られる場合、それを季節性と呼びます。 例えば、四半期ごとの業績変動や、年末商戦における売上の増加などが季節性の要因です。

周期性

季節性よりも長期的な変動を指し、特定の周期で規則的な変動が見られる場合があります。経済の景気サイクルなどが周期性の要因となります。

外部要因

時系列データには、外部からの影響や出来事によって引き起こされる変動が含まれます。 例えば、自然災害、経済政策の変更、新型コロナウイルスのようなパンデミックなどが挙げられます。

ノイズ

データには予測不可能なランダムな変動が含まれます。これをノイズと呼び、外部要因や未知の要因によって引き起こされるものです。

時系列データの前処理

変動要因やデータの特性を踏まえて分析対象の時系列データを加工します。適切な前処理を行うことで、モデルの訓練や予測の精度が向上し、 信頼性のある結果を得ることができます。

欠損値の処理
時系列データに欠損値がある場合、これを処理する必要があります。欠損値の補完や削除を検討し、データの完全性を確保します。
外れ値の検出と処理
時系列データには外れ値が含まれることがあります。これらの外れ値を検出し、必要に応じて修正するか、異常値としてマークします。
定常性の確認
多くの統計モデルは定常性を仮定しています。定常性がない場合は、差分を取るなどしてデータを定常化する必要があります。
トレンドと季節性の除去
データにトレンドや季節性がある場合、これらを取り除いてデータを定常化します。トレンドは差分を取ることで、季節性は季節調整手法を用いて除去します。
スケーリングと標準化
モデルの訓練において、異なる尺度を持つ複数の時系列データを組み合わせる場合、各時系列を同じ尺度に変換することが重要です。
ラグ変数の作成
過去の値(ラグ)を利用して予測モデルを構築する場合、ラグ変数を作成します。これにより、過去の情報をモデルに取り込むことができます。
周期性の取り扱い
周期性がある場合、フーリエ変換などを使用して周期成分を特定し、適切に処理します。
時刻情報の取り扱い
日付や時間の情報がある場合、これを特徴量として取り扱うことができます。たとえば、曜日や祝日のダミー変数を作成するなどがあります。

3. 時系列分析に関する仮説検定

時系列分析において使用される代表的な仮説検定には、以下のようなものがあります。

単位根検定(Unit Root Test)
単位根検定は、時系列データの非定常性を評価するための統計的手法の一つです。非定常性のある時系列データは、統計的性質が時間とともに変動する可能性があるため、 多くの統計的手法が適用できないことがあります。非定常性は、平均や分散が時間とともに変動する状態を指し、これが問題となる場合があります。 データが非定常性を示す場合、差分をとるなどの手法を用いてデータを定常化する必要があります。定常なデータは、統計的モデリングや予測の際に安定性が保たれ、 妥当な結果が得られることが期待されます。
ダービン・ワトソン比(Durbin-Watson statistic)
推定したモデルが好ましい性質を保つための条件として「誤差は互いに無相関」である必要があります。この条件を満たさない場合、標準誤差を過小評価してしまい、 回帰係数の検定で本来有意でない結果を有意としてしまう可能性があります。ダービン・ワトソン比を確認して残差に自己相関があるかを調べます。
チャウテスト(Chow Test)
経済時系列データを用いてモデルを構築する際に、ある時点でオイルショックなどの大きな経済的な変化が生じた場合、その前後でモデルの係数が変わる可能性があります。 このような係数の変化を構造変化と呼びます。構造変化の前後に分けて推定し、係数に差があるかどうかを統計的に検定する手法としてチャウテストが使用されます。
グレンジャー因果検定(Granger Causality Test)
グレンジャー因果検定は、ある時系列Xが別の時系列Yの予測に役立つかどうかを判断するための仮説検定です。グレンジャー因果検定では、YをXが引き起こすかではなく、 YをXで予測できるかを検定します。Xの値が将来のYの値に対して有意な情報を提供できる場合に、「XからYへのグレンジャー因果性がある」と言われます。

これらの検定は、モデルの仮定が成り立っているかどうかを確認し、モデルの診断や改善に役立ちます。モデル構築の前に、データの特性に合わせて適切な仮説検定を行います。

4. 時系列分析モデル

時系列分析にはさまざまなモデルがあります。モデルの選択はデータの性質や特徴によります。以下は、代表的な時系列分析モデルです。

ARIMAモデル (AutoRegressive Integrated Moving Average)
ARIMAモデルは、自己回帰(AR)成分、差分(I:Integrated)成分、移動平均(MA)成分を組み合わせたモデルです。 過去の観測値の自己相関、データの非定常性の差分、白色雑音の移動平均を考慮します。ARIMAモデルはトレンドや季節性がある場合にも適用できます。
Seasonal ARIMAモデル (SARIMA)
SARIMAモデルは、季節性を考慮した時系列データの予測に使用される統計モデルの一種です。 ARIMAモデルに季節成分を組み込むことで、季節性が強く影響するデータに対して柔軟なモデリングが可能になります。 SARIMAモデルは時系列データのトレンド、季節性、ノイズを捉えるのに役立ちます。
指数平滑法 (Exponential Smoothing)
指数平滑法は、過去の観測値に重みをつけて予測を行う手法です。 単純な指数平滑法、二重指数平滑法、三重指数平滑法などがあり、データの傾向や季節性を考慮できるようになっています。
ベクトル自己回帰モデル (Vector Autoregression, VAR)
VARモデルは、複数の時系列データを同時にモデル化する手法です。各時系列が他の時系列の過去の値に依存する関係を考慮します。
GARCHモデル (Generalized Autoregressive Conditional Heteroskedasticity)
GARCHモデルは、金融時系列データなどのボラティリティ(変動の尺度)が時間とともに変化する場合に使用されます。 変動の非定常性をモデル化するための手法で、特に金融データに適しています。

これらのモデルは一般的なものであり、データの性質や特徴によっては他にも適したモデルが存在します。 モデル選択はデータの理解、モデルの適合度、未来の予測性能を総合的に評価しながら行われます。

5. まとめ

時系列分析は、ビジネス、経済、気象、医療など様々な分野で重要な役割を果たしています。 時系列データのパターンやトレンドを把握し、将来の値を予測するための様々な手法が考案され、応用されています。 時系列分析を理解し、利用することで、未来の予測や意思決定のサポートに役立てることができます。

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