パネルデータ単位根検定

Stata の新コマンド xtunitroot はパネルデータを対象とした単位根検定(定常性の検定)機能を提供します。Levin–lin–Chu (2002), Harris–Tzavalis (1999), breitung (2000; breitung and Das 2005), Im–Pesaran–Shin (2003), Fisher-type (Choi 2001) 検定では、すべてのパネル中に単位根が含まれるとの帰無仮説を用います。Hadri (2000) のラグランジュ乗数 (LM) 検定ではすべtのパネルが(トレンド)定常であるとの帰無仮説が用いられます。オプションを用いることによって、データ生成過程のモデル中に固定効果や時間トレンドを含めることが可能です。

これらの検定では、データセット中におけるパネル数と各パネル中における時間周期の数について異なった漸近仮定が置かれます。xtunitroot はすべての基本要件に対応しています。例えば多数のパネルを持つが時間周期数は少ないデータセット、パネル数は少ないものの多くの時間周期数を持つデータセット、パネル数も時間周期数も共に大きなデータセットに適した検定が用意されています。ほとんどの検定ではバランスされたパネルデータセットが前提となりますが、Im–Pesaran–Shin と Fisherタイプ検定においてはバランスの取れていないパネルデータも扱えます。

今、多数の国別の34年にわたる実質為替相場の対数値を記録したデータがあったとします。ここでは Levin–lin–Chu 検定をG7の国々に適用し、時系列 lnrxrate 中に単位根が含まれるかどうかを検証してみます。lnrxrate 時系列の算出においては米国が価値標準財として用いられているため、このデータサブセット中に含まれるパネルの数は6となります。

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出力のヘッダ部には検定結果が要約されています。帰無仮説は時系列には単位根が含まれているとするもので、対立仮説は時系列が定常的であるとするものです。出力に示されているように、Levin–lin–Chu 検定では自己回帰パラメータがすべてのパネルについて共通であることが仮定されます。従ってこの検定では、ある国の実質為替相場には単位根が含まれるが、他の国の実質為替相場には含まれないといった事態は許容されません。xtunitroot によって実行される個々の検定ではパネル数と時間周期数についての想定される振舞いが明示されます。パネル固有の平均値は持つが時間トレンドを持たない Levin–lin–Chu 検定では、パネル数よりも時間周期数の伸びの方が大きいことが要求されます。従ってパネル数と時間周期数の比率は0に漸近します。この検定ではそれぞれのパネルに対してADF (augmented Dickey–Fuller) 検定がフィットされます。その際、ラグ数はAICに基づき最大10までの範囲で選択されるよう指示しています。時系列の長期的分散を推定する上で、xtunitroot はデフォルトとして Bartlett カーネルを使用していますが、そのラグ数は Levin, lin, Chu からの提案に基づき10という値が用いられています。

Levin–lin–Chu のバイアス補正された t 統計量は −4.0277 とレポートされていますが、これは通常のすべての有意水準において有意な値であると言えます。従って帰無仮説は棄却され、時系列は定常的であると結論付けられます。クロスセクション相関の影響を緩和するために、時系列からクロスセクション平均を引く操作を xtunitroot の demean オプションで指定した場合には、5%レベルでは有意であるが、1%レベルでは有意と言えない検定統計量が得られます。

Levin–lin–Chu 検定ではパネル数と時間周期数の比率が漸近的に0となることが仮定されているため、パネル数が大きく時間周期数が少ないようなデータセットには適していません。そこで今度は時間周期数が固定値でパネル数が無限大となる傾向を仮定した Harris–Tzavalis 検定を用いた形で、lnrxrate を151ヶ国全体に適用してみます。

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単位根を持つという帰無仮説は明確に棄却されたので、lnrxrate は定常時系列であると結論付けることができます。

パネルデータと混合モデルに関する新機能の一覧については こちら をクリックください。

参考文献

breitung, J. 2000.
The local power of some unit root tests for panel data. Advances in Econometrics, Volume 15: Nonstationary Panels, Panel Cointegration, and Dynamic Panels, ed. B. H. Baltagi, 161–178. Amsterdam: JAY Press.
breitung, J., and S. Das. 2005.
Panel unit root tests under cross-sectional dependence. Statistica Neerlandica 59: 414–433.
Choi, I. 2001.
Unit root tests for panel data. Journal of International Money and Finance 20: 249–272.
Hadri, K. 2000.
Testing for stationarity in heterogeneous panel data. Econometrics Journal 3: 148–161.
Harris, R. D. F., and E. Tzavalis. 1999.
Inference for unit roots in dynamic panels where the time dimension is fixed. Journal of Econometrics 91: 201–226.
Im, K. S., M. H. Pesaran, and Y. Shin. 2003.
Testing for unit roots in heterogeneous panels. Journal of Econometrics 115: 53–74.
Levin, A., C.-F. lin, and C.-S. J. Chu. 2002.
Unit root tests in panel data: Asymptotic and finite-sample properties. Journal of Econometrics 108: 1–24.

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