パネルデータ分析

パネルデータ分析では個人、企業、地域(都道府県)などの異質性を捕えることができます。異質性を考慮しない時系列やクロスセクションの分析は、バイアスのかかった結果をもたらすことが考えられます。
このページではデータの読み込みから、固定効果モデル・変量効果モデルの推定、モデル選択、診断・検定までの操作を一貫して解説します。
パネルデータ分析の各種計算手法の詳細についてはこちらをご覧ください。


データの準備

  1. サンプルファイルはこちらからダウンロードできます。パネルワークファイルでは必ず個体を識別するIDが必要です。サンプルファイルbank.xlsをインポートしてみましょう。系列: bankが個体を識別するIDです、これをクロスセクションIDと呼びます。系列: yearは時間を識別します。
    File > Open > Foreign Fileと操作します。EViewsはパネルワークファイルの自動認識し、Rangeの表示がDated Panelになっています。
    データ
    パネルワークファイルでは必ず個体を識別するIDが必要です。
  2. パネルワークファイルにはクロスセクションの利用方法により、色々なグラフを作成できます。View > Graphと操作し、Panel optionsセクションで表示方法を変更できます。
    データ
    具体例は1変数のグラフ、または複数変数のグラフをご覧ください。

推定

    固定効果モデル

  1. サンプルデータharrison_panel.wf1を用いて、Harrison and Rubinfeld (1978)のヘドニック価格に関する分析を行います。
    住宅(持ち家)価格の中央値(MV:対数値)を被説明変数として、説明変数には住宅価格に影響を与える次のような変数を利用します。ボストン近郊の92の町から合計506の地域でデータを集めました。
    ここでは、Workfike structureをUndated panelを指定、Identifier seriesにTOWNIDを入力します。
    データ
    Quick/Estimate Equationと操作して次のように入力し、推定します。
    mv c crim chas nox rm age dis b lstat
    Nameボタンをクリックし、モデルに「eq01」と名前を付けます。Estimateボタンをクリックして、Panel Optionsのタブを表示します。Cross-sectionのタブでFixedを選択して、OKボタンをクリックします。
    データ
  2. 推定結果はここでは省略し、個体効果に意味あるのかを検定します。eq02でView:Fixed/Random Effects –Testing/Redundant Fixed Effects – Likelihood Ratioと操作します。
    データ
    帰無仮説は「固定効果は冗長である」です。$p$値がゼロとなっていますので、棄却されます。つまり、「固定効果」は有効だということが分かります。
  3. 固定効果モデルにおける各個体のごとの効果を調べます。ViewsボタンでFixed/Random Effect :Cross-section Effectと操作します。
    データ
  4. 観測できない固定効果(異質性)の一番大きな町を特定します。列を選択してコピーします。ワークファイルのタブからPaste from Clipboard Pageを選択して、新しいページに貼り付けます。
    データ
    EFFECTシリーズを開き、PropertyボタンでFill color/Type: High-Low-Meidanを選択し、各レベルの色を設定します。
    データ
    66番が最低、77番が最大、80番が中央値を示しています。
    データ
  5. ランダム効果モデル

  6. 個体ごとの独自の変動を確率変数として考えます。eq01を右クリック/Copyと操作し、ワークファイル上で右クリック/Pasteと操作し、「eq01r」という名前で作成し、ランダム効果モデルを推定します。
    eq01rを開き、Estimateボタンをクリック、Panel OptionsタブでCross-section: Randomを選択し推定します。
    データ
    データ
  7. ハウスマン検定

  8. ランダム効果モデルを推定したeq01rでView/Fixed/Random Effect Testing/Correlated Random Effects – Hausman Testと操作します。
    帰無仮説は$Cov(x_{it}, \nu_{i})=0$、対立仮説は$Cov(x_{it}, \nu_{i})\ne0$です。
    データ
    ハウスマン検定の結果、固定効果モデルを支持する結果となりました。「ランダム効果モデルで確率変数と説明変数は無相関である」という仮定について調べるための検定です。これらが相関していれば、ランダム効果モデルの採用は不適切である、ということになります。

例題 Wooldrigde(2002)

  1. Wooldridge (2002)は、職業訓練の補助金(1987-1989)が、企業の製品廃棄率に与える影響を分析していますが、 サンプルファイルjtrain.wf1を開き、これをEViewsで再現してみます。
    ワークファイルウィンドウのRange欄をダブルクリックし、クロスセクションIDをFCODE, 時間変数をYEARとしてパネルデータの設定を行います。
    次のモデルEQ01という名前で固定効果モデルとして推定します。 \[ lscap_{i,t} = \alpha_{0} + \alpha_{i} + \beta_{1}d88_{i,t} + \beta_{2}d89_{i,t} + \beta_{3}grant_{i,t} + \beta_{4}grant_{i,t-1} + e_{i,t} \]
  2. 但し、誤差項の系列相関を考慮して、Panel Optionsタブにある係数共分散の項目で、White periodを選び、さらに、自由度調整のオプションをチェックします。
    データ
    データ
    Coef. covariance method欄では、分散共分散行列の修正法を9種類から選択できます。
    • Ordinary: 修正を行わない
    • White crosssection: 誤差項について各時点での同時相関を考慮し、同時相関と不均一分散に対して堅牢
    • White period: 個体ごとの不均一分散と時系列方向の系列相関を考慮
    • White (diagonal): 個体・時間に依らない、非構造的な不均一分散に対して堅牢
    • White two-way cluster: 個体と時間の両方向の不均一分散に堅牢
    • Cross-section SUR: White periodと若干異なる計算手法で個体方向の系列相関を考慮
    • Cross-section weights: 個体方向の不均一分散に堅牢だが一般的な残差の不均一分散を考慮しない
    • Period weights: 時間方向の不均一分散に堅牢だが一般的な残差の不均一分散を考慮しない
    • Period SUR: White periodと若干異なる計算手法で時系列方向の系列相関を考慮
  3. さらに、個体効果を考慮しないモデルとしてEQ02を推定します。 \[ \Delta lscap_{i,t} = \alpha + \beta_{1}d89_{i,t} + \beta_{2} \Delta grant_{i,t} + \beta_{3} \Delta grant_{i,t-1} + e_{i,t} \]
    EQ01をコピーアンドペーストして、Nameボタンで名前を変更し、推定オプションとしてWhite periodを利用します。Equation specification欄では階差関数d()を利用し、次のように入力します。
    d(lscrap) c d89 d(grant) d(grant_1)
    データ
    データ
  4. EQ02の残差に系列相関があるか確認します。パネルデータのモデルではGMM推定以外では、検定機能はないので、手作業で操作します。EQ02でProc/Make Residual Series…として残差resid01を取り出します。
    データ
    この残差の自己回帰モデルEQ03を推定します。 \[ resid01_{i,t} = \gamma reside01_{i,t-1} + \nu_{i,t} \]
    新たにEquationオブジェクトを作成し、自己回帰関数ar()を利用し、次のように入力し推定します。
    resid01 ar(1)
    データ
    EQ03でView/Coefficient Diagnostics/Wald Coefficient Restrictions…と操作し、$\gamma = -0.5$であるかを、c(1)=-0.5として、検定を実行します。
    データ
    データ
    帰無仮説は棄却されるので、EQ03に系列相関が存在します。

例題:Grunfeld(1958)

  1. サンプルデータはgrunfeld_baltagi_panel.wf1をもとにプーリング推定とランダム効果推定の選択について解説します。Grunfeld(1958)を例にシンプルなプーリングモデルにランダム効果を設定するべきかを判断します。データセットは1935-1954年の企業の投資関数を推定します。次のモデルにランダム効果を追加すべきか、検定します。 \[ I_{i,t} = \alpha + \beta_{1}F_{i,t} + \beta_{2}C01_{i,t} + u_{i,t} \]
    $I, F, C01$はそれぞれ投資金額、企業価値(発行済み株式の価値)、資本ストックです。
    Quick/Estimate Equationと操作し、Equation specificationにつぎを入力し、Panelオプションを設定せず、プールド推定します。
    i c f c01
    データ
  2. View/Fixed-Random Effects Testing/Omitted Random Effects –Lagrange Multiplierと操作します。帰無仮説は、プーリングモデルが良い、です。EViewsは5つの統計量を表示し、()内が$p$値です。
    データ

クロスセクション方向の相関

  1. パネルデータではクロセクション方向の誤差項は独立であるという仮定しています。この仮定が満たされているを確認します。OECD加盟18カ国のガソリン消費量データ、gasoline.wf1を開きます。$LGASPCAR, LINCOMEP, LRPMG, LCARPCAP$はそれぞれ1台あたりのガソリン消費量の対数値、1人当たり実質所得の対数値、実質ガソリン価格の対数値、1人当たり自動車所有台数です。これらを利用し次のモデルを推定します。 \[ LGASPCAR_{i,t} = \alpha_{0} + \alpha_{i} + \beta_{1} LINCOMEP_{i,t} +\beta_{2} LRPMG_{i,t} + \beta_{3} LCARPCAP_{i,t} + u_{i,t} \]
  2. 上記のガソリンの消費モデルEQ01を、固定効果モデルとして推定します。Quick/Estimate Equationと操作し、Equation specificationにつぎを入力し推定します。
    lgaspcar c lincomep lrpmg lcarpcap
    データ
  3. View/Residual Diagnostics/Cross-section Dependence Testと操作して、クロスセクション方向の相関についての検定を実行します。帰無仮説は、残差にクロスセクション方向の相関はない、です。
    データ
    EViewsは4つの統計量を報告します。
    • Breusch-Pagan LM: 4つの検定統計量のうち、もっとも一般的な統計量。
    • Pesaran Scaled LM: データ数$N$が大きいときは、このPesaran Scaled LMの方が良い。ただし、$N$が小さい場合は検定統計量が正規分布しない。
    • Bias-corrected scaled LM:Scaled LMのバイアス修正版。固定効果モデルの場合にのみ出力。
    • Pesaran-CD: $N$と$T$が小さい場合でも優れた統計量を提供する。

参考文献

  1. 松浦克己, & コリン・マツケンジー. (2012). EViews による計量経済分析. 東洋経済新報社.
  2. Grunfeld, Y. (1958). The determinants of corporate investment (Doctoral dissertation, The University of Chicago).
  3. Wooldridge, J. M. (2002). Econometric analysis of cross section and panel data MIT press. Cambridge, ma, 108(2), 245-254.
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